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【翻訳記事】なぜベトナムが大富豪を抑圧しないのか

中国の実業家に対する取締りとは異なり、ベトナム共産党は経済界の大物たちが比較的平和に財を築くことを許容している
デイビッド・ハット
2022年7月29日

ベトナムで一番の資産家として知られる、ビングループ会長のファム・ニャット・ヴォン(写真:ツイッター
中国で見られる実業家や民間企業に対する共産党主導の取り締まりに比べ、ベトナムの実業家たちはこれまでのところ、ハノイ共産主義支配下で比較的容易に財を築いてきた。

 

それゆえに、ベトナムで一番の資産家であるビングループ会長のファム・ニャット・ヴォンが当局と煩わしいことになっていると、最近ソーシャルメディア上で噂が広まった時、国内最大の民間企業に中国ばりの抑圧が迫っている可能性があるとの憶測が急速に広まった。

 

ベトナム共産党(CPV)の反汚職キャンペーン「燃焼炉」が2016年に初めて実施されて以来、数千人の公務員と党幹部を取り締まってきており、直近ではコロナ関連の汚職と贈賄があった。

 

しかしながら、今月上旬、公安省の担当者は、ヴォンが行動制限されていることを含む彼に関する噂を否定した。とはいえ、公安省の声明を全て鵜呑みにするべきではない。

 

今年初め、格安航空会社バンブーエアウェイズを所有するなど急速に加速するコングロマリット、FLCグループのチン・ヴァン・クエット社長が捜査対象になっていることを当局はまたしても否定した。

 

クエット —
2017年にベトナムで最も裕福な人物であったと推定されるが、2020年までに彼の資産は急落した— 彼の会社が公開している株の市場操作に関与したとしてその後間もなく逮捕された。

 

ISEAS (ユソフ・イサーク研究所)ベトナム研究プログラム上級研究員のレ・ホン・ヒエップは、ヴォンが「失脚し、ベトナム政府から制裁を受ける可能性は低い」と論じていた。

 

ヴォンが免れるかどうかにかかわらず、党と民間企業との間の最近の現状に疑問が生じる。1986年、党は経済全体に対する国家の統制を事実上終わせた「ドイモイ(刷新)」として知られる自由市場改革を導入した。

 

ベトナムで最も裕福なビングループ会長のファム・ニャット・ヴォンは、当局と煩わしいことになっているのか。

 

ベトナム国内総生産GDP)は、国が輸出大国として変貌したその年の260億米ドルから2020年には2,710億米ドルまで上昇した。ある推測によると、3000億米ドル以上の資産を保有している「超富裕層」のベトナム人数は、2000年から2016年の間に320%上昇し、世界屈指の成長率である。

 

共産主義国家のさらなる資本主義の導入は、ベトナム国民や世論調査結果によって受け入れられてきた。

 

アメリカを拠点とするシンクタンク、ピュー研究所は2006年に 「一部で貧困格差が生じたとしても、ほとんどの人は自由市場経済の方が裕福である」という意見に同意かどうかを世界中で世論調査を実施した。

 

アメリカでは72.1%の人が賛成し、ベトナムでは95.4%の人が好意的で調査対象国の中で圧倒的に多い割合であった。

 

特に富の分配に関して、それは明らかに資本主義と共産主義による混合経済システムの矛盾を指摘している。2013年、グェン・フゥ・チョン共産党書記長は「貧富の差は悪化の兆しを見せるだけである」と警告した。

 

しかし、ベトナムの大富豪たちはこれまでのところ、実際にはチョン書記長の反汚職キャンペーンの影響を受けておらず「主な対象は腐敗した政府関係者や国有企業の経営者たちだからである」とヒエップはアジアタイムズに語った。

 

最近ではごく一部の経営幹部が標的にされ、彼は対象になった。しかし、これは

「主にこれらの人々の違法な事業活動によるもので、CPVが彼らの力を恐れたからではない」。

 

ヴォンの兄弟であるファム・ニャット・ヴーは、国営のモビフォン通信による民間通信会社の買収未遂を含む長期に渡るスキャンダルに対する贈賄の容疑で2019年初頭に逮捕された。

 

「だが、企業には党の規則を支持すること、国の経済的安全を脅かし、党の政策に反する可能性のある特定の腐敗したビジネス慣行から距離を置くことが期待されている」とヒエップは語った。

 

「結局のところ、党幹部や経済界の大物たちはそれぞれの目標を達成するために互いを必要としている:体制の維持と増資」。

 

ホーチミン市の旧大統領官邸で開催された1968年のテト攻勢の記念式典で旗を振りながら行進するベトナム退役軍人。(写真:AFP/Stringer)

 

アナリストたちは、ベトナムの民間企業とその実業家たちは — 中国とは異なり — 共産党の支配に脅威を与えるにはまだ政治的に弱すぎると考えている。

 

ベトナムの民間企業は中国の民間企業よりもはるかに弱く、国家に依存している」とオレゴン大学政治学教授のチョン・ヴーは語った。

 

「大物は少数しかおらず、彼らは全て不動産と公共事業に携わっている。彼ら個人的および政治的つながりだけで財を成しただけでなく、生き残り、継続するためにはそのようなつながりに大きく依存している」。「彼らの事業は各分野を支配するかもしれないが、経済に影響を与えずに簡単に取って代わられる」とヴーは付け加えた。

 

2020年からの財務省の推計によると、ベトナムの民間企業の96%が中小企業で、その大多数が「中規模」ではない。

 

ヴーはまた、ベトナムの資産家たちは誰も、中国の資産家たちが長年築いてきたグローバルなつながりを持っていないと述べた。

 

これまでのところ、ベトナム共産党幹部と経済界の大物たちは、相対的な見返りのバランスを実現してきた、とアナリストはいう。

 

党は経済成長のために民間企業を必要としており、そこから国民に対する党の正当性を大いに得ている。民間企業は規制上の優遇措置や譲歩、市場へのアクセスを必要としている。

 

党の主要な政策と任命を決める5年に一度の党イベントである2021年の党大会に向けて、党は2020年後半の42%から、2025年までに民間企業が経済の半分以上を占めることを望んでいることを発表した。

 

とりわけ、2020年の42%を占める70万企業と比較して、2025年までに約150万の民間企業がGDPの55%を占めることを望んでいる。

 

「民間企業のGDPへの貢献度がますます高まり、経済にとって重要になった」。「民間企業を支援することを目標の一つにすることは重要でありまったく正しいことである」と党大会代表でありベトナム女性連合のハー・チー・ガー会長は会期中に語った。

 

「今後、民間企業を封じ込めるのではなく、ベトナムの経済成長を支え、海外からの投資に依存するリスクを軽減するために、さらに経済成長を促進していく可能性がある」とヒエップは語る。

 

チョン書記長が、コングロマリットの新しい自動車製造ラインを開発していたビングループの工場を2017年に訪問した際「国産車ブランドを構築したパイオニアである」と称賛した。

 

グェン・フゥ・チョン共産党書記長は幹部をかなり厳しく取り締まってきたが、民間の経営者たちはかなり少ない。(写真:AFP/ニャック・グェン)
 

現職のグェン・スアン・フック国家主席は、2019年に彼が首相在任中に工場を訪問した際に瓶グループの重要性を明白にした。

 

2019年初めに、ビンファストが新しい電気バイクを成功に導いた後、「ベトナム製品を優先的に使用する」とフックは公に話し、海外企業と投資への国の依存を減らす計画にこれらの巨大企業が必要不可欠であることを政権が考えていることを示している。 

 

2018年のフック政権は、外国車の輸入に制限を課し、ビンファストを支持した。

 

この処置の見返りに、ベトナムの実業家たちには従順で抑制することが期待されている。他の大富豪とは異なり、ヴォンは倹約家として知られている。

 

 ヴォンが国営新聞トゥォイ・チェに行った稀なインタビューで、彼の会社の核となる原則は「愛国心、規律、礼儀正しさ」であると語っている。

 

 しかしながら、その見返りの関係は今日のようにいつもあるとは限らない。経済成長や成熟するにつれて、改革を求める世論の圧力が高まっている。

 

 腐敗と縁故主義は、共産主義から資本主義への移行を含めて経済進歩の初期段階で助長する可能性があるが、民間企業が成長し、貧富の差が明白になるにれてより問題になる。

 

 ベトナムはまさに法の支配や明確に定義された私有財産権が不十分で、すべての企業が同じルールに従わなければならないわけではないとの認識が高まるにつれ、対立の可能性が上がる。 

 

ヴィクトリア大学ウェリントンのグェン・カック・ジャンによると、政府が国内の民間企業や経済界の大物たちへの取り締まりは、今でこそ中国で見られるものよりもほど遠いが、取り締まりが加速している兆候がある。 

 

「国の発展モデルがある意味で些細な汚職や横領または『金銭の受け取り』など、腐敗に依存しているため、民間企業の腐敗を解決し、経済成長を促進することは党のジレンマになるだろう。」 

 

「腐敗は経済システムを運用するための燃料である」とある大物はいう。「最終的な成り行きは、見せしめとして一部のビジネスマンを選択的に処罰することになり、一方で、特にあまりにも大きすぎて潰せない企業は、手付かずのまま残るだろう」と予測した。 

 

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原文:

asiatimes.com